幹細胞治療の品質は何で決まる?細胞が治療に使われるまでを解説
「幹細胞治療」と聞くと、どのような細胞を使うのか、何個の細胞を投与するのかに目が向きやすいかもしれません。
しかし、治療に使われる細胞の品質を考えるうえでは、細胞の種類や数だけを見るのでは十分ではありません。
患者から組織を採取した後には、搬送、細胞の分離、培養・加工、品質確認、保存・輸送、出荷判定など複数の工程があります。さらに、加工施設から出荷された後も、実際に患者へ投与するかどうかは医療機関側で判断します。
幹細胞治療の品質は、細胞そのものだけではなく、採取から投与までの一連の製造管理・品質管理と医療提供体制によって支えられています。
この記事でわかること
- 幹細胞が採取されてから治療に使われるまでの流れ
- 培養・無菌性・品質確認では何が重視されるのか
- 「出荷判定」と医師による「投与判断」の違い
- 幹細胞治療を検討するときに確認したいポイント
目次
幹細胞治療は「幹細胞ならすべて同じ」ではない
同じ「幹細胞治療」や「MSC(間葉系間質細胞など)」という名称が使われていても、治療条件まで同じとは限りません。
治療内容を考える際には、例えば次のような違いがあります。
- 脂肪、骨髄、臍帯など、細胞の由来
- 患者本人の細胞を使う自家か、他者由来の他家か
- 組織や細胞の採取方法
- 培養・加工の方法
- 投与する細胞数や細胞の状態
- 点滴や関節内投与などの投与方法
- 保存・輸送条件
- 製造工程と品質管理の方法
そのため、「MSCを使っている」「細胞数が多い」といった一つの情報だけから、治療全体の品質を判断することはできません。
また、ここでいう「品質」は、治療効果の大きさを意味するものではありません。細胞が定められた条件で製造・管理され、治療に使用するために必要な確認が行われているかという観点で考える必要があります。
採取した細胞が治療に使われるまで
培養を伴う幹細胞治療では、採取した組織がそのまま患者へ戻されるわけではありません。
治療法によって細かな工程は異なりますが、大きく整理すると次のような流れがあります。
重要なのは、このうち一つの工程だけを管理すればよいわけではないという点です。
採取時の操作、培養環境、保存や輸送など、それぞれの段階が品質管理に関係します。また、加工施設で出荷可能と判断された細胞であっても、患者の体調などによって医師が当日の投与を見合わせる場合があります。
幹細胞治療の品質や安全管理を考えるには、こうした一連の流れを見る必要があります。
培養工程では何を管理するのか
細胞の培養施設は、単に「細胞を増やす場所」ではありません。
再生医療の分野では、細胞を加工する施設について「CPC(Cell Processing Center)」という言葉が使われることがあります。日本では、再生医療等安全性確保法に基づき、特定細胞加工物等を製造する施設や製造・品質管理についてルールが定められています。
培養・加工の工程では、例えば次のような点が重要になります。
- 定められた手順に従って作業しているか
- 作業環境が適切に管理されているか
- 使用する原料や資材が管理されているか
- 製造工程の記録が残されているか
- 異常や手順からの逸脱があった場合に適切に対応できるか
細胞は生きた材料です。そのため、設備だけでなく、作業する人、手順、記録、試験などを含めて工程全体を管理することが重要になります。
なぜ無菌性の管理が重要なのか
患者へ投与する細胞では、細菌や真菌などによる微生物汚染を防ぐための管理が重要です。
厚生労働省は2026年6月12日、「特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針」を第2版へ改訂しました。
細胞加工物では、製品の性質によっては最終段階で一般的な医薬品のような滅菌処理を行うことが難しい場合があります。そのため、最後に試験を行うことだけではなく、製造工程を通じて汚染を防ぐ考え方が重要になります。
例えば、
- 作業環境の管理
- 無菌操作
- 製造工程の管理
- 微生物学的な試験
- 保存・輸送
- 出荷時の確認
などを組み合わせて考えます。
ただし、「無菌性が確認されているから安全」と単純に考えることも適切ではありません。
無菌性は重要な安全管理の一要素ですが、治療には採取や投与に伴うリスク、患者の基礎疾患や体調など、ほかの要因も関係します。
細胞の品質は何を確認するのか
治療に使う細胞について、何をどの基準で確認するかは、細胞の種類や製造方法、提供する再生医療等によって異なります。
一般的な品質管理の観点としては、次のような項目が挙げられます。
- 細胞数
- 細胞の生存率
- 細胞の性状
- 微生物学的安全性
- 製造が定められた手順に従って行われたか
- 保存や輸送の条件が適切だったか
ここで注意したいのが、「細胞数が多いほど品質が高い」とは限らないことです。
細胞数は治療設計に関係する一つの情報ですが、それだけで細胞加工物全体の品質や治療の有効性を評価することはできません。
「品質管理を行っている」という説明を見る場合にも、何をどのように確認しているのかを分けて考えることが大切です。
出荷判定とは何か
「培養が終わった」ことと、「患者へ投与できる状態である」ことは同じではありません。
細胞の加工後には、定められた基準や製造記録、必要な試験結果などを確認し、特定細胞加工物等を出荷してよいか判断する工程があります。
さらに重要なのが、加工施設から出荷されたことと、医師がその患者へ投与してよいと判断することも別であるという点です。
加工施設では、製造した細胞加工物が定められた条件を満たしているかを確認します。
一方、医療機関では、患者の当日の体調や治療計画なども踏まえ、実際に投与するかどうかを判断します。
つまり、「加工施設での出荷判定」と「医療機関での投与判断」には、それぞれ異なる役割があります。
細胞加工物が出荷されたからといって、自動的に患者へ投与されるわけではありません。
海外でも細胞製品の品質管理が問題になった事例がある
細胞製品の品質管理を考える具体例として、2026年8月14日に米国FDAがR3 Medical Companiesなどに発出したWarning Letterがあります。
ここでまず確認しておきたいのは、この事例が米国での事例であり、日本の医療機関に対する処分ではないことです。
また、対象となった製品には臍帯や臍帯血由来の製品、エクソソーム関連製品などが含まれており、日本で行われている自家脂肪組織由来の幹細胞治療と同じものではありません。
さらに、米国FDAの規制制度と日本の再生医療等安全性確保法は別の制度です。そのため、FDAの判断をそのまま日本国内での違法性判断に置き換えることはできません。
FDAはこの事例で、対象製品について未承認の医薬品・生物製剤としての問題を指摘したほか、製造・品質管理についてもCGMP(医薬品の製造管理・品質管理に関する基準)上の複数の問題を指摘しました。
具体的には、無菌工程の検証、製造工程の管理、試験方法、清掃・消毒、保存期間を裏づける安定性試験、品質部門の手順などについて指摘しています。
FDAはまた、事業者のウェブサイトやYouTube、TikTok、Instagram、Facebookなどで行われていた情報発信も確認しています。そこでは、炎症、関節や神経系の疾患、糖尿病、臓器不全、組織修復や再生、いわゆる「rejuvenation」など、幅広い用途への訴求が行われていました。
この事例から読み取るべきなのは、「海外の細胞治療は危険」ということではありません。
重要なのは、「細胞を使っている」「専用の施設で製造している」といった情報だけでは、品質全体を評価できないという点です。
細胞の由来だけでなく、製造工程、無菌操作、品質試験、保存、出荷まで一連の管理を見る必要があります。
日本でも再生医療の提供体制について確認が進められている
日本でも2026年、再生医療を適切に提供するための確認が改めて行われています。
2026年7月31日、厚生労働省は「再生医療等の適切な提供に係る自己点検について」を公表し、再生医療等提供機関、認定再生医療等委員会、特定細胞加工物等製造事業者などに自己点検を求めました。
また同日、再生医療等安全性確保法に基づく改善命令等も公表されています。
こうした動きをもって、「再生医療そのものに問題がある」と捉えるのは適切ではありません。
重要なのは、制度上の手続きを済ませることだけではなく、実際の診療や製造が、法令や提供計画、定められた手順に沿って継続して行われることです。
再生医療の安全性を支える要素には、
- 治療を行う医学的な妥当性
- 説明と同意
- 製造・品質管理
- 微生物学的安全性
- 医師による患者ごとの投与判断
- 医療安全や急変時への対応
など、複数の要素があります。
「厚生労働省へ届出をしている」という一つの事実だけで、個々の治療の安全性や有効性が国によって保証されていると考えないことも重要です。
CPCがあるだけで品質が保証されるわけではない
幹細胞治療について調べていると、「CPCで培養」「クリーンルームを使用」「品質管理を実施」といった説明を目にすることがあります。
適切な施設や設備は重要です。
しかし、CPCがあること自体によって細胞の品質が自動的に保証されるわけではありません。
品質管理には施設や設備だけでなく、
- 作業を行う人
- 定められた手順
- 製造・試験の記録
- 環境管理
- 品質試験
- 異常や逸脱が生じた場合の対応
- 保存や輸送
- 出荷判定
といった運用が関係します。
つまり、細胞を扱う医療では「どのような施設を使っているか」と同時に、「そこでどのように管理されているか」を考える必要があります。
幹細胞治療を検討するときに確認したいこと
患者自身が、製造記録や専門的な試験結果をすべて評価することは現実的ではありません。
一方で、治療を受ける前に医療機関へ確認できることはあります。
例えば、次のような点です。
- どの組織を由来とする細胞を使うのか
- 自分自身の細胞を使う自家か、他者由来の他家か
- 採取した細胞はどこで加工されるのか
- どのような考え方で品質管理が行われるのか
- 治療のリスクや限界について説明があるか
- 実際に投与するかどうかをどのように判断するのか
- 投与中や投与後に問題が起きた場合の対応について説明があるか
ただし、「この検査をしていれば安全」「自家細胞なら安全」「CPCがあれば安心」といった一つの条件だけで判断するのは適切ではありません。
治療内容、細胞の加工・品質管理、患者ごとの医学的な判断を合わせて理解することが大切です。
幹細胞治療について、あわせて確認したい記事
幹細胞治療の品質管理について理解したあとに、治療そのものの仕組みや、自分が治療の対象になり得るかを確認すると、治療全体をより整理しやすくなります。
幹細胞治療とは?仕組みと特徴をわかりやすく解説
幹細胞治療の適応・適応外とは?受けられる人・受けられない人を解説
N2クリニックの幹細胞療法について
N2クリニック銀座本院で行っている幹細胞療法の治療内容については、こちらから確認できます。
N2クリニック銀座本院の幹細胞療法
まとめ
幹細胞治療の品質は、細胞数や「CPCで培養している」という情報だけでは評価できません。
患者から組織を採取してから、採取、搬送、分離、培養・加工、品質確認、保存・搬送、出荷判定、医療機関での確認、投与という一連の工程があります。
細胞を扱う医療では、設備だけでなく、人、手順、記録、試験、環境管理、保存・輸送、出荷判定まで含めた運用が重要です。
そして、加工施設から細胞が出荷された後も、患者の状態を確認し、実際に投与するかどうかを判断するのは医療機関側の役割です。
幹細胞治療を検討する際は、「どのような細胞を何個使うのか」だけでなく、その細胞がどのような工程を経て治療に使われるのかについても説明を受けると、治療内容をより具体的に理解しやすくなります。
N2クリニック銀座本院について
N2クリニック銀座本院では、脂肪組織由来の幹細胞を用いる再生医療について診療を行っています。
幹細胞治療を検討する際には、治療の仕組みだけでなく、適応、治療方法、考えられるリスクや注意点について理解したうえで判断することが大切です。
治療について疑問がある場合は、診察時に医師へご相談ください。
監修クリニック情報
N2クリニック銀座本院
住所:東京都中央区銀座6丁目6-5 HULIC &New GINZA NAMIKI6 11階
TEL:03-3289-0202
診療時間:10:00〜18:30
休診日:日曜日
最寄駅:各線銀座駅B5番出口より徒歩4分
記事監修者名
竹島 昌栄(N2クリニック銀座本院 院長)
参考文献
- 厚生労働省. 再生医療等に関する更新情報 .
- 厚生労働省. 特定細胞加工物等の微生物学的安全性に関する指針(第2版) . 2026年6月12日.
- 厚生労働省. 再生医療等の適切な提供に係る自己点検について(依頼) . 医政研発0731第1号. 2026年7月31日.
- 厚生労働省. 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく改善命令等について . 2026年7月31日.
- U.S. Food and Drug Administration. R3 Medical Companies — Warning Letter, MARCS-CMS 726330 . August 14, 2026.
- e-Gov法令検索. 再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第85号) .
- e-Gov法令検索. 再生医療等の安全性の確保等に関する法律施行規則(平成26年厚生労働省令第110号) .
