免疫細胞の働きを支えるミトコンドリアとは?エネルギー代謝との関係
免疫細胞が体内で働くためには、エネルギーが必要です。その重要な役割を担っているのが、細胞の中にある「ミトコンドリア」です。
近年の研究では、ミトコンドリアは単なるエネルギー産生装置ではなく、免疫細胞が活性化する、増殖する、働き方を変えるといった過程にも深く関係していることがわかってきました。ミトコンドリアと免疫の関係を知ることは、私たちの体を守る免疫システムを理解するうえでも重要です。
この記事でわかること
- ミトコンドリアが細胞内で担っている役割
- 免疫細胞が活動するときに起こる代謝の変化
- T細胞やNK細胞とミトコンドリアの関係
- ミトコンドリアと炎症・免疫反応の関係
目次
ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生を担う
ミトコンドリアは、ほとんどの細胞の中に存在する小さな構造物です。よく「細胞の発電所」と表現されるように、食事から得た栄養素などを利用して、細胞が活動するために必要なATPというエネルギーをつくります。
免疫細胞も例外ではありません。体内を監視したり、刺激に反応して増殖したり、異常のある細胞に対応したりするには、多くのエネルギーが必要です。
ただし、ミトコンドリアの役割はエネルギー産生だけではありません。現在では、代謝によって生まれる物質や活性酸素などを介し、免疫細胞の情報伝達や機能の調節にも関係することが知られています。
免疫細胞は活動に合わせてエネルギーの使い方を変える
免疫細胞は、常に同じ方法でエネルギーをつくっているわけではありません。刺激を受けて活性化すると、必要な働きに合わせて細胞内の代謝を大きく変化させます。
このように、免疫と代謝の関係を研究する分野は「免疫代謝(immunometabolism)」と呼ばれています。
たとえば、免疫細胞を「必要なときに一気に動く作業チーム」と考えてみましょう。短時間で増殖し、強く活動する免疫細胞では、ブドウ糖を素早く利用する「解糖系」が活発になることがあります。これは、急いでエネルギーを用意するために、手軽な燃料をすぐ使うようなイメージです。
一方、長く生存する細胞では、ミトコンドリアによる酸化的リン酸化や脂肪酸代謝が重要になる場合があります。こちらは、燃料を効率よく使いながら、長時間活動するための仕組みにたとえられます。
つまり、免疫細胞の機能とエネルギー代謝は切り離して考えることができないのです。
T細胞の働きとミトコンドリア
T細胞は、体に入ってきた病原体などを見つけて、免疫反応を起こす細胞です。病原体の情報を認識すると活性化し、数を増やしながら、さまざまな免疫の働きに関わります。
T細胞は、働き方によってエネルギーの使い方が変わります。活発に働くエフェクターT細胞は、すぐに使えるエネルギーを得るために、細胞内で糖を分解する仕組みを多く使います。一方、過去に出会った病原体などを覚えているメモリーT細胞は、ミトコンドリアを使って効率よくエネルギーをつくる仕組みが重要だと考えられています。
さらに、細胞がエネルギーをつくるときにできる物質が、T細胞の成長や働き方を決める合図になることもわかってきています。
このことから、ミトコンドリアは単にT細胞を動かすためのエネルギー源ではなく、T細胞がどのような性質を持つかに関わる要素の一つと考えられています。
NK細胞の働きにも代謝が関係する
NK(Natural Killer)細胞は自然免疫を担う免疫細胞の一つで、ウイルス感染細胞や異常な細胞を認識して働きます。
NK細胞も刺激を受けて活性化すると、細胞内のエネルギー需要が変化します。そのため、解糖系やミトコンドリアで行われるエネルギー代謝を状況に応じて調節しています。
実際にNK細胞の研究では、ミトコンドリアがエネルギーをつくる働きなどの代謝状態と、細胞の増殖や機能との関係が検討されています。
一方で、ここから「ミトコンドリアを活性化すればNK細胞の働きが必ず高まる」と単純に考えることはできません。免疫細胞の状態は、年齢、疾患、栄養状態、周囲の細胞やサイトカインなど、多くの要因から影響を受けます。
ミトコンドリアは炎症のシグナルにも関わる
ミトコンドリアと免疫の関係でもう一つ重要なのが、炎症との関係です。
細胞が大きなストレスや損傷を受けると、通常はミトコンドリア内部に存在する成分が細胞質などへ放出されることがあります。こうした成分を免疫システムが「異常のサイン」として認識すると、炎症反応につながる場合があります。
特にミトコンドリアDNA(mtDNA)は、細胞内の特定のセンサーによって認識され、自然免疫反応に関係することが研究されています。
つまりミトコンドリアは、免疫反応に必要なエネルギーを供給するだけでなく、細胞の異常を免疫系へ知らせる仕組みにも関与しているのです。
ただし、炎症そのものは体を守るために必要な反応でもあります。単純に「炎症は悪い」「ミトコンドリアの機能が高ければよい」と捉えるのではなく、適切に調節されていることが重要です。
ミトコンドリアと免疫の研究からわかってきたこと
免疫学では現在、免疫細胞の種類や数だけでなく、「その細胞がどのような代謝状態にあるのか」という視点も重要になっています。
ミトコンドリアは、
- 免疫細胞が活動するためのエネルギー産生
- T細胞やNK細胞などの代謝調節
- 免疫細胞の分化や機能に関わるシグナル
- 細胞ストレスや炎症反応の調節
など、複数の側面から免疫システムに関わっています。
こうした知見は免疫疾患やがん、感染症などの研究にも応用されていますが、基礎研究で明らかになったメカニズムと、実際の患者様に対する治療効果は分けて考える必要があります。
特定の食品やサプリメント、生活習慣などによって「ミトコンドリアを活性化すれば免疫力が高まる」といった単純な関係が確立しているわけではありません。
免疫細胞について、あわせて確認したい記事
ミトコンドリアと免疫細胞の関係を理解する際は、免疫細胞そのものの役割や、細胞同士が連携する免疫ネットワークについてもあわせて確認すると、全体像を整理しやすくなります。
免疫細胞とは?NK細胞・T細胞・B細胞は体の中で何をしている?
体内の免疫の司令塔はどこ?免疫ネットワークがつくる防御の設計図
NK細胞療法はどんな人に向いている?免疫低下が気になる方へ適応の考え方を解説
実際の免疫細胞療法について知りたい方へ
免疫細胞の代謝について研究でわかっていることと、実際の患者様に行われる免疫細胞療法は分けて理解する必要があります。治療としての仕組みや位置づけはこちらで確認できます。
免疫細胞療法と免疫療法の違いを、治療前に整理する
まとめ
ミトコンドリアは、細胞のエネルギーをつくるだけの器官ではありません。T細胞やNK細胞をはじめとした免疫細胞が活動するときには細胞内の代謝が変化し、その過程でミトコンドリアも重要な役割を担っています。
さらに、ミトコンドリア由来の物質が免疫や炎症のシグナルに関係することもわかってきました。
免疫を考える際には、「免疫細胞がどれだけ存在するか」だけではなく、細胞がどのような状態で、どのようにエネルギーを利用しているのかという視点も大切です。
クリニック案内
N2クリニック銀座本院では、患者様の状態を確認したうえで、免疫細胞療法について医師がご相談をお受けしています。
ミトコンドリアと免疫細胞には密接な関係がありますが、ミトコンドリアの状態だけで免疫機能や治療の適否を判断することはできません。
また、免疫細胞療法の効果には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるものではありません。治療を検討する際は、治療内容や費用、リスクなどについて説明を受けたうえで、ご自身の状態に適しているかを医師と確認することが大切です。
治療内容や費用、適応について確認したい方は、ご予約・ご相談からご確認ください。
監修クリニック情報
N2クリニック銀座本院
住所:東京都中央区銀座6丁目6-5 HULIC &New GINZA NAMIKI6 11階
TEL:03-3289-0202
診療時間:10:00〜18:30
休診日:日曜日
最寄駅:各線銀座駅B5番出口より徒歩4分
記事監修者名
竹島 昌栄(N2クリニック銀座本院 院長)
参考文献
- Mehta MM, Weinberg SE, Chandel NS. Mitochondrial control of immunity: beyond ATP. Nature Reviews Immunology. 2017.
- O'Neill LAJ, Kishton RJ, Rathmell J. A guide to immunometabolism for immunologists. Nature Reviews Immunology. 2016.
- Marchi S, Guilbaud E, Tait SWG, et al. Mitochondrial control of inflammation. Nature Reviews Immunology. 2023.
- Wilfahrt D, Delgoffe GM. Metabolic waypoints during T cell differentiation. Nature Immunology. 2024.
- Hu MM, Shu HB. Mitochondrial DNA-triggered innate immune response: mechanisms and diseases. Cellular & Molecular Immunology. 2023.
- Yang Y, et al. Metabolic hallmarks of natural killer cells in the tumor microenvironment and implications in cancer immunotherapy. Oncogene. 2023.
