10年前の自分と今の自分は同じ?細胞の入れ替わりから考える身体の変化
「人間の細胞は3か月ですべて入れ替わる」「数年経てば、昔の自分をつくっていた細胞は残っていない」。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。
しかし、人間のすべての細胞が一定期間で一斉に入れ替わるわけではありません。
比較的短い期間で新しくなる細胞もあれば、何年、あるいはそれ以上にわたって身体に残る細胞もあります。さらに、一つの細胞が長く残っていても、その中にあるタンパク質や脂質などは同じままではありません。
私たちの身体は、完成したものをそのまま保存しているのではなく、さまざまな時間軸で変化しながら維持されています。
この記事でわかること
- 「細胞は3か月で入れ替わる」という説は本当なのか
- 細胞によって寿命や更新する速さが異なる理由
- 細胞そのものと、細胞の中身の更新の違い
- 細胞の更新を知ることが再生医療の理解につながる理由
目次
「人間の細胞は3か月ですべて入れ替わる」は本当?
結論からいうと、「人間のすべての細胞が3か月で入れ替わる」という説明は正確ではありません。
人体には多くの種類の細胞があり、それぞれに役割があり、入れ替わる速さも異なるからです。
2021年に『Nature Medicine』に掲載された研究では、成人の身体では1日に約3,300億個の細胞が入れ替わっていると推定されています。その数の多くを血液系の細胞が占め、重さでみると血液系細胞や腸管上皮の更新が大きな割合を占めます。
つまり、私たちの身体では毎日大規模な細胞の更新が起きています。
ただし、それは「ある時点を境に身体全体が新しい細胞へ置き換わる」という意味ではありません。
細胞によって寿命は大きく違う
身体を構成する細胞は、一つの時間の流れで動いているわけではありません。
外界から刺激を受けやすい場所では、傷ついたり失われたりする細胞を補う必要があります。そのため、比較的活発に新しい細胞がつくられます。
一方で、長い期間にわたり同じ細胞が維持される組織もあります。
そのため「人間の細胞は何日で入れ替わりますか」という問いに、○日、○か月、○年という一つの数字で答えることはできません。
身体は、異なる寿命を持つ細胞が同時に存在することで成り立っています。
腸・血液・皮膚など、比較的更新の速い組織
身体の中でも、腸管の上皮や血液系の細胞などは、更新が活発なことで知られています。
腸の内側は、食べ物や腸内細菌をはじめ、さまざまな物質と接する場所です。古い細胞が失われる一方で、新しい細胞が継続的につくられています。
血液も一種類の細胞でできているわけではありません。赤血球、白血球、血小板などがあり、それぞれ異なる期間でつくられ、役目を終えていきます。
皮膚でも、表面の細胞が失われながら、内側から新しい細胞が供給されています。
こうした組織では、失われた細胞を補いながら機能を維持する仕組みが日々働いています。
長期間にわたって残る細胞もある
一方で、長い期間にわたって身体に残る細胞もあります。
代表的な例の一つが脳の神経細胞です。
放射性炭素を利用して細胞がつくられた時期を調べた研究では、大脳皮質の後頭部にある神経細胞の年齢が、その人自身の年齢とほぼ一致することが示されました。
つまり、成人になってからもすべての神経細胞が次々と新しい細胞に置き換わっているわけではありません。
心臓を動かす心筋細胞も、更新のゆっくりした細胞です。成人後も一部が新しくつくられていることが報告されていますが、その割合は高くなく、年齢によっても変化します。
(引用元:Spalding KL, et al., Cell, 2005/Bergmann O, et al., Science, 2009)
このことからも、「数年経てば昔の細胞はすべてなくなる」という説明は、人体の実際の姿とは異なることがわかります。
脂肪細胞も同じ状態のままではない
脂肪細胞は、「細胞の入れ替わり」を理解するうえで興味深い例です。
成人では脂肪細胞の総数は比較的安定していますが、その一つひとつが生涯残り続けているわけではありません。研究では、成人の脂肪細胞のおよそ10%が1年間に新しい細胞へ入れ替わると推定されています。
(引用元:Spalding KL, et al., Nature, 2008)
さらに重要なのは、脂肪細胞そのものと、その中に蓄えられている脂質では、入れ替わる時間が違うという点です。
一つの脂肪細胞が存在し続けている間にも、内部の脂質は取り込まれたり、使われたりしながら動いています。
(引用元:Arner P, et al., Nature, 2011)
「細胞が残っている」ということと、「その細胞の中身がずっと同じ」ということは、別の話なのです。
細胞が残っていても、その中身は変わっている
この考え方は脂肪細胞だけに限りません。
細胞の中では、タンパク質をはじめとしたさまざまな成分が絶えずつくられ、役目を終えたり損傷したりしたものは分解されます。
タンパク質にもそれぞれ異なる寿命があり、短期間で入れ替わるものもあれば、比較的長く存在するものもあります。
つまり、身体の変化を考えるときには、
- 細胞そのものが入れ替わる時間
- 細胞の中にある物質が入れ替わる時間
を分けて考える必要があります。
一つの細胞が長く存在していても、その細胞は固定された材料の塊ではありません。
細胞の中でも、絶えず小さな変化が起きています。
私たちの身体の材料はどこから来る?
では、新しくつくられる細胞や、細胞の中の成分はどこから来るのでしょうか。
その材料の多くは、私たちが外から取り入れています。
食事からはタンパク質、脂質、糖質、ビタミン、ミネラルなどを取り込みます。水も身体を構成する重要な要素です。呼吸によって取り込んだ酸素は、細胞がエネルギーをつくる過程などに利用されます。
ただし、「食べたものがそのまま身体になる」と考えるのは単純すぎます。
たとえば、食事に含まれるタンパク質は消化され、アミノ酸などに分けられて吸収されます。その後、身体の必要に応じて、新しいタンパク質をつくる材料として利用されます。
身体は、外から取り入れたものを一度分解し、必要な形につくり直し、利用し、不要になったものを外へ出しています。
同じものを食べれば身体も似てくる?
では、家族が数か月にわたってまったく同じ食事を続けたら、身体も少しずつ同じものになっていくのでしょうか。
答えは、そう単純ではありません。
同じ栄養素を取り入れても、その後の使われ方には個人差があります。
たとえば、
- 遺伝的な違い
- 年齢や身体活動量
- 筋肉量などの身体組成
- ホルモンや代謝の状態
- 腸内細菌などの違い
によって、消化・吸収された物質がどのように利用されるかは変わります。
身体は、食べたものをそのまま積み重ねてつくられる物体ではありません。
同じ材料が与えられても、一人ひとりの身体の中にある仕組みによって、その使われ方は変わるのです。
10年前の自分と今の自分は「同じ身体」なのか
ここまで見てくると、少し不思議な疑問が生まれます。
10年前の自分と、今の自分は同じ身体なのでしょうか。
細胞という視点だけで見れば、10年前から残っている細胞もあれば、すでに別の細胞に置き換わったものもあります。
さらに、長く残っている細胞の中でも、タンパク質や脂質などの構成成分は少しずつ変化しています。
材料だけを見れば、私たちの身体は決して「ずっと同じ」ではありません。
それでも、身体は一つの個体として続いています。
そこには、身体の状態を一定の範囲に保とうとする恒常性(ホメオスタシス)という仕組みがあります。
体温、血糖、水分量など、身体の内部では数多くの調節が絶えず行われています。
変化を止めることで身体が保たれているのではありません。
変化を続けながら、全体としての状態を保っているのです。
身体は変化しながら維持されている
私たちの身体は、完成した一つの物体が何十年もそのまま保存されているものではありません。
ある細胞は失われ、新しい細胞がつくられる。長く存在する細胞の中でも、古い成分が分解され、新しい成分がつくられる。
身体は、大小さまざまな変化を重ねながら存在しています。
一方で、入れ替わりが速ければ速いほど健康になるわけではありません。
細胞には、それぞれの組織に適した更新の仕組みがあります。細胞が必要以上に増えることも、反対に必要な細胞が十分に補われないことも、正常な状態とはいえません。
重要なのは「どれだけ新しくなるか」ではなく、身体に必要な細胞や組織の機能が適切に維持されていることです。
身体は固定されたものではなく、変化の中で保たれています。
再生医療を考える前に知っておきたいこと
再生医療を理解するうえでも、まず身体が本来どのように細胞や組織を維持しているのかを知ることは重要です。
身体の一部の組織では、幹細胞などが新しい細胞の供給に関わっています。幹細胞には、自らを保ちながら増える性質や、条件によって異なる細胞へ変化する性質があります。
再生医療では、こうした細胞の性質や、細胞が周囲の組織とどのように関わるかについて研究・臨床応用が進められています。
ただし、ここで注意したいのが、
「身体の細胞は入れ替わるのだから、再生医療によって身体を新しいものに置き換えられる」
という理解ではないことです。
再生医療と呼ばれる医療にもさまざまな方法があり、その目的や対象、期待される作用、リスクは異なります。また、基礎研究で明らかになった細胞の性質が、そのまま個々の治療効果を意味するわけではありません。
再生医療を考えるときほど、まず「細胞とはどのようなものか」「身体は普段どのように維持されているのか」という基礎を正しく理解することが大切です。
再生医療について、あわせて確認したい記事
細胞の入れ替わりや身体の維持の仕組みを理解したあとに、再生医療そのものの考え方や、幹細胞の役割について確認すると、再生医療との違いを整理しやすくなります。
再生医療とは?薬や手術との違いを「治療の目的」から解説
幹細胞とは?種類・働き・再生医療で注目される理由をわかりやすく解説
再生医療は「若返り」の治療?できることと限界を整理
まとめ
「人間の細胞は3か月ですべて入れ替わる」という説明は、正確ではありません。
身体には、比較的短い期間で更新される細胞もあれば、長期間にわたって残る細胞もあります。また、細胞そのものが残っていても、その内部ではタンパク質や脂質などの成分が、それぞれ異なる時間軸でつくられ、分解されています。
10年前の自分と今の自分は、材料という意味ではまったく同じではありません。
それでも私たちの身体は、絶え間ない変化の中で一つの個体として保たれています。
身体は、変化の中で保たれている。
この視点は、細胞や幹細胞、そして再生医療を理解するときの土台にもなります。
「細胞を新しくする」という単純なイメージではなく、身体が本来持っている細胞の維持や更新の仕組みを知ることから、再生医療について考えていくことが重要です。
N2クリニック銀座本院
N2クリニック銀座本院では、再生医療について、患者様の現在の状態や治療を検討する目的を確認しながら医師が相談をお受けしています。
再生医療は、すべての方に同じ治療が適しているものではありません。治療を検討する際には、治療内容だけでなく、考えられるリスクや費用などについて説明を受け、ご自身の状態に適しているかを医師と確認することが大切です。
監修クリニック情報
N2クリニック銀座本院
住所:東京都中央区銀座6丁目6-5 HULIC &New GINZA NAMIKI6 11階
TEL:03-3289-0202
診療時間:10:00〜18:30
休診日:日曜日
最寄駅:各線銀座駅B5番出口より徒歩4分
記事監修者名
竹島 昌栄(N2クリニック銀座本院 院長)
参考文献
- Sender R, Milo R. The distribution of cellular turnover in the human body. Nature Medicine. 2021;27:45-48.
- Spalding KL, Bhardwaj RD, Buchholz BA, Druid H, Frisén J. Retrospective birth dating of cells in humans. Cell. 2005;122(1):133-143.
- Bergmann O, Bhardwaj RD, Bernard S, et al. Evidence for cardiomyocyte renewal in humans. Science. 2009;324(5923):98-102.
- Spalding KL, Arner E, Westermark PO, et al. Dynamics of fat cell turnover in humans. Nature. 2008;453:783-787.
- Arner P, Bernard S, Salehpour M, et al. Dynamics of human adipose lipid turnover in health and metabolic disease. Nature. 2011;478:110-113.
- Mathieson T, Franken H, Kosinski J, et al. Systematic analysis of protein turnover in primary cells. Nature Communications. 2018;9:689.
