スポーツ障害に対する幹細胞|筋肉・腱・靭帯への応用を解説
スポーツによる筋肉・腱・靭帯の障害には、治療やリハビリテーションを続けても症状が長引くものがあります。こうした運動器の障害に対して研究されている選択肢の一つが、幹細胞を用いた再生医療です。
なかでも間葉系幹細胞(MSC)は、筋肉や腱、靭帯などへの応用が研究されています。ただし、スポーツ障害であれば一律に幹細胞治療が適しているわけではなく、部位によって研究の進み方や得られているエビデンスも異なります。
この記事では、筋肉・腱・靭帯への幹細胞の応用について、現在どこまでわかっているのか、治療を検討する際に何を確認すべきなのかを整理します。
この記事でわかること
- スポーツ障害で幹細胞が研究されている理由
- 筋肉・腱・靭帯それぞれへの応用
- 現時点での研究成果と限界
- 幹細胞治療を検討するときのポイント
スポーツ障害と幹細胞の関係
スポーツ障害への応用で研究されている幹細胞の一つが、間葉系幹細胞(MSC)です。
間葉系幹細胞は体性幹細胞の一種で、脂肪組織や骨髄などから得られ、骨・軟骨・脂肪などの細胞に分化する性質を持つことが知られています。
近年では、別の細胞へ分化する性質だけでなく、幹細胞から分泌されるさまざまな物質が周囲の細胞や炎症反応にどのように影響するのかについても研究が進められています。
こうした特徴から、整形外科やスポーツ医学の領域では、筋肉・腱・靭帯などの損傷に対する応用が検討されています。
ただし、使用される幹細胞の由来や細胞数、培養方法、投与方法などは研究によって異なります。「幹細胞」という名称だけで、すべての研究や治療を同じものとして考えないことが大切です。
筋肉の損傷への応用
肉離れなどの筋損傷に対しても、幹細胞を利用できないか研究が行われています。
筋肉はもともと一定の修復能力を持っていますが、損傷が大きい場合や同じ部位を繰り返し傷めている場合には、回復に時間を要することがあります。
間葉系幹細胞については、筋損傷後の炎症や組織修復に関わる環境へどのように作用するのか、基礎研究や前臨床研究を中心に検討されています。
一方、人を対象とした質の高い臨床研究はまだ十分ではありません。
そのため現時点では、肉離れなどに幹細胞を用いることで「治癒が早くなる」「競技復帰までの期間を短縮できる」と断定できる段階ではありません。
筋損傷への応用は研究が続けられている領域の一つ、と理解しておくことが適切です。
腱への応用
腱は筋肉と骨をつなぎ、筋肉が生み出した力を骨へ伝える組織です。
スポーツでは繰り返し負荷が加わるため、アキレス腱や肩、肘、膝周囲などで障害が起こることがあります。
腱の障害については、間葉系幹細胞を用いた人での臨床研究も報告されています。痛みや機能、画像所見などを評価した研究があり、幹細胞をどのように腱の治療へ応用できるかが検討されています。
一方で、これまでの研究には対象人数が少ないものもあり、細胞の由来や投与量、投与方法なども統一されていません。
また、腱の回復には治療後のリハビリテーションや負荷のかけ方も関係します。幹細胞を投与することだけではなく、その後どのように組織へ負荷をかけていくかも含めた検討が必要です。
靭帯への応用
靭帯は骨と骨をつなぎ、関節を安定させる役割を持っています。
スポーツでよく知られている靭帯損傷の一つが、膝の前十字靭帯損傷です。損傷の程度によってはリハビリテーションだけでなく、靭帯再建術などが検討されることもあります。
こうした靭帯損傷についても、間葉系幹細胞などを利用して組織修復を補助できないか研究されています。
特に、靭帯そのものの修復だけでなく、再建術後に移植した組織と骨がなじんでいく過程などについても研究対象となっています。
一部の研究では画像上の変化などが報告されていますが、人を対象とした臨床研究はまだ限られており、長期的な機能や競技復帰への影響について明確な結論が得られているわけではありません。
幹細胞治療が、手術やリハビリテーションなどの既存治療を一律に置き換えるものではない点にも注意が必要です。
スポーツ障害に対する幹細胞研究の現在地
スポーツ障害への幹細胞の応用を理解するときは、「研究されていること」と「治療効果が確立していること」を分けて考える必要があります。
筋肉・腱・靭帯のいずれについても研究されていますが、エビデンスの量や質には違いがあります。
また、研究ごとに、
- 幹細胞の由来
- 細胞数や培養方法
- 投与する場所や方法
- 対象となる損傷の種類や程度
- 治療後のリハビリテーション
などの条件が異なります。
特に筋損傷では、人を対象とした高いレベルの臨床的エビデンスがまだ不足しています。
腱・靭帯では人を対象とした研究も行われていますが、治療方法の標準化や長期的な評価には課題が残っています。
そのため、「スポーツ障害なら幹細胞治療が使える」とひとまとめにするのではなく、損傷した組織や状態ごとに考える必要があります。
治療を検討するときに確認したいこと
スポーツ障害で幹細胞治療を検討するときは、まず現在の障害を正確に把握することが重要です。
同じ「スポーツによる痛み」でも、筋肉・腱・靭帯のどこを傷めているのか、損傷がどの程度なのかによって治療方針は異なります。
確認したいポイントには、次のようなものがあります。
- どの組織を損傷しているのか
- 損傷の程度や範囲
- 受傷からどのくらい経過しているのか
- これまでどのような治療を受けてきたのか
- 日常生活や競技へどの程度影響しているのか
そのうえで、安静や運動量の調整、薬物療法、リハビリテーション、手術などの治療と、再生医療を含めた選択肢を検討します。
幹細胞治療だけで競技復帰を目指すものではない
スポーツ障害では、損傷した組織だけでなく、筋力や柔軟性、関節の動き、身体の使い方なども競技復帰に関係します。
そのため、幹細胞治療を検討する場合でも、治療後の状態に合わせたリハビリテーションや負荷管理が重要です。
痛みの変化だけを基準に競技へ戻るのではなく、再受傷の可能性も考慮しながら、段階的に活動量を調整していく必要があります。
幹細胞について、あわせて確認したい記事
スポーツ障害への幹細胞の応用を理解する際は、幹細胞そのものの基本や、脂肪由来・骨髄由来の違いもあわせて確認すると、研究内容や治療の考え方を整理しやすくなります。
幹細胞とは?種類・働き・再生医療で注目される理由をわかりやすく解説
脂肪由来の幹細胞とは?骨髄由来の幹細胞との違いを解説
実際の治療について知りたい方へ
スポーツ障害で幹細胞治療を検討できるかどうかは、年齢や競技歴だけではなく、損傷している組織や程度、これまでの治療経過などを含めて判断する必要があります。治療の適応についてはこちらで確認できます。
幹細胞治療の適応・適応外とは?受けられる人・受けられない人を解説
まとめ
スポーツによる筋肉・腱・靭帯の障害に対して、幹細胞を用いた再生医療の研究が進められています。
なかでも間葉系幹細胞(MSC)は、脂肪組織や骨髄などから得られる幹細胞の一つで、スポーツ医学や整形外科の領域でも研究対象となっています。
ただし、研究の進み方は部位によって異なります。筋損傷では人を対象とした質の高い臨床研究がまだ限られており、腱・靭帯でも治療方法の標準化や長期的な評価には課題が残っています。
スポーツ障害が長引いている場合は、幹細胞治療だけを単独で考えるのではなく、まず損傷している部位や程度を確認し、これまでの治療やリハビリテーションも含めて選択肢を検討することが大切です。
クリニック案内
N2クリニック銀座本院では、患者様ご自身の脂肪組織から採取した幹細胞を用いる再生医療を行っています。スポーツによる筋肉・腱・靭帯の障害がある場合でも、すべての患者様が幹細胞治療の対象になるわけではありません。
「リハビリを続けても症状が残っている」「これまでの治療以外にどのような選択肢があるのか知りたい」「自分の状態で幹細胞治療を検討できるのか確認したい」という方は、現在の状態やこれまでの治療経過を確認しながら、再生医療を含めた治療の選択肢について相談できます。
治療内容や費用、適応について詳しく知りたい方は、こちらからお問い合わせください。
監修クリニック情報
N2クリニック銀座本院
住所:東京都中央区銀座6丁目6-5 HULIC &New GINZA NAMIKI6 11階
TEL:03-3289-0202
診療時間:10:00〜18:30
休診日:日曜日
最寄駅:各線銀座駅B5番出口より徒歩4分
記事監修者名
竹島 昌栄(N2クリニック銀座本院 院長)
参考文献
- Hurley ET, et al. Orthobiologics in Muscle Injury. Clin Sports Med. PubMed
- Koshy D, Koshy DI, Ooi E. Biologic Therapies in the Management of Sports-Related Tendon and Ligament Injuries: A Narrative Review. Cureus. 2025;17(5):e84556. PubMed
- Kim YS, et al. Mesenchymal Stem Cells Use in the Treatment of Tendon Disorders: A Systematic Review and Meta-Analysis of Prospective Clinical Studies. Ann Rehabil Med. 2021. PubMed
- Dyck B, Clifford C, Hendry GJ, Hopper GP, Hamilton DF. Poor consideration of tissue loading in randomised trials of MSC interventions for tendon pathology: A systematic review using the TIDieR framework. J Exp Orthop. 2025;12(3):e70388. PubMed
- He W, et al. Role of tendon-derived stem cells in tendon and ligament repair: focus on tissue engineer. Front Bioeng Biotechnol. 2024. PubMed
