なぜ幹細胞培養上清液が注目されている?研究背景から基本を整理
幹細胞培養上清液は、幹細胞そのものではなく、幹細胞を培養した過程で培養液中に分泌されたさまざまな物質に着目したものです。
近年関心が集まっている背景には、間葉系幹細胞(MSC)の働きについて、細胞そのものが組織に定着して働く仕組みだけでなく、周囲に放出する物質を介した働きも重要ではないかという研究が進んできたことがあります。
一方、「注目されている」ということと、あらゆる目的に対する有効性や安全性が確立しているということは同じではありません。幹細胞培養上清液については、分かっていることと、まだ研究が必要なことを分けて理解することが大切です。
この記事でわかること
- 幹細胞培養上清液とは何か
- なぜ研究分野で注目されているのか
- エクソソームとの違い
- 品質や安全性について確認したいポイント
目次
幹細胞培養上清液とは
幹細胞培養上清液とは、幹細胞を培養した培地から細胞を取り除いた後に残る液体を指します。以下、この記事では「培養上清液」と表記します。
培養の過程では、細胞から周囲へさまざまな物質が分泌されます。培養上清液には、製造方法や培養条件によって異なりますが、サイトカインや成長因子、タンパク質、脂質、細胞外小胞などが含まれることがあります。
重要なのは、培養上清液は幹細胞そのものを投与する幹細胞療法とは別のものだという点です。
幹細胞療法では細胞そのものを用いるのに対し、培養上清液では、幹細胞が周囲へ放出した物質に着目しています。
幹細胞の「分泌する働き」に注目が集まっている
培養上清液が研究されるようになった背景には、MSCの働きに対する考え方の変化があります。
以前は、投与された幹細胞が傷ついた組織に定着し、必要な細胞へ分化することが重要だと考えられていました。
その後の研究では、MSCがサイトカインや成長因子、細胞外小胞などを周囲へ分泌し、近くの細胞へ働きかける「パラクライン作用」も重要ではないかと考えられるようになっています。
こうした細胞から分泌される物質のまとまりは「セクレトーム」と呼ばれ、組織修復や免疫反応などとの関係について研究が続けられています。
つまり、幹細胞そのものだけを見るのではなく、「幹細胞が周囲の細胞へどのような情報を伝えているのか」に研究の対象が広がったことが、培養上清液への関心につながっています。
培養上清液はエクソソームそのものではない
ここは混同されやすいポイントですが、幹細胞培養上清液とエクソソームは同じものではありません。
培養上清液には、サイトカインや成長因子などの水に溶けた成分に加えて、細胞外小胞(EV)が含まれることがあります。エクソソームは、この細胞外小胞に関連して使われる名称の一つです。
したがって、
培養上清液の中に細胞外小胞などが含まれ得るのであって、培養上清液そのものがエクソソームなのではありません。
さらに、現在の細胞外小胞研究では、「エクソソーム」と呼ぶためには由来や性質を適切に確認する必要があり、単に小さな粒子が検出されたというだけでは厳密にエクソソームと断定できない場合があります。
「培養上清液」「細胞外小胞」「エクソソーム」は、区別して理解することが大切です。
細胞を直接使わない研究アプローチとしての特徴
培養上清液が関心を集めるもう一つの理由が、細胞そのものではなく、細胞から分泌された成分を研究対象にできることです。
MSC由来のセクレトームについては、いわゆる「cell-free(無細胞)」のアプローチとして研究が進められています。
生きた細胞を扱う方法とは異なるため、研究上は保存方法や成分分析、品質の標準化などを検討しやすい可能性があります。
ただし、「細胞を使わない=安全性が確立している」という意味ではありません。
原料となる細胞の種類や状態、培養条件、回収方法、精製方法、保存方法などによって、最終的な培養上清液の成分は変わり得ます。そのため、実際に医療として使用する際には品質や安全性を慎重に確認する必要があります。
注目されていても効果が確立しているとは限らない
培養上清液について情報を調べる際に特に注意したいのが、研究上の可能性と、確立した治療効果を混同しないことです。
MSCのセクレトームや細胞外小胞については、基礎研究や動物研究を含め、さまざまな領域で研究が行われています。
しかし、どの疾患や症状に対して、どの方法・投与量・投与経路が適切なのかについては、研究段階の部分も多く残っています。
厚生労働省も2024年7月、幹細胞培養上清液やエクソソーム等を用いる医療について、安全性に十分留意するよう周知しています。
そのため、「再生する」「若返る」「安全だから問題ない」といったイメージだけで判断するのではなく、どのような根拠があるのか、どこまで分かっているのかを確認することが重要です。
幹細胞培養上清液では品質管理も重要
培養上清液は、一つの決まった物質でできた医薬品のようなものではありません。どの細胞をどのような環境で培養し、どのように回収・加工したかによって内容が変わり得ます。
そのため、培養上清液について確認するときには、名称だけで判断しないことが大切です。
たとえば、原料となる細胞の由来、培養・製造工程の管理、無菌性などの確認、成分や細胞外小胞の評価方法などは、品質を考えるうえで重要な要素になります。
また、「エクソソーム配合」「成長因子を含む」といった言葉だけで、品質や医療上の有用性を一律に判断することもできません。
研究が進んでいる分野だからこそ、具体的な製造方法や管理体制、医学的根拠を確認する姿勢が求められます。
幹細胞培養上清液について、あわせて確認したい記事
幹細胞培養上清液が注目される背景を理解したあとは、培養上清液そのものの基本や、含まれ得るサイトカインの役割、混同されやすいエクソソームとの違いもあわせて整理すると理解しやすくなります。
幹細胞培養上清液とは?幹細胞培養液・幹細胞治療との違いを医師監修で解説
サイトカインとは?再生医療で注目される理由と体内での役割を解説
エクソソームと幹細胞治療の違いとは?仕組み・特徴・選び方を整理
まとめ
幹細胞培養上清液が注目される背景には、幹細胞が周囲へ分泌する物質の働きに関する研究が進んできたことがあります。
MSCが分泌するサイトカインや成長因子、細胞外小胞などが、細胞同士の情報伝達や組織の反応にどのように関係するのかについて、現在も研究が続いています。
また、培養上清液とエクソソームは同じものではありません。培養上清液は複数の成分を含み得るものであり、細胞外小胞はその構成要素の一つとして研究されています。
一方で、研究が活発であることと、治療としての有効性・安全性が十分に確立していることは別です。
培養上清液を用いた医療を検討する場合は、名称やイメージだけではなく、何を使用するのか、どのような根拠があるのか、品質やリスクがどのように管理されているのかを確認したうえで、医師から十分な説明を受けることが大切です。
N2クリニック案内
N2クリニック銀座本院では、再生医療について患者様の状態やご希望を確認し、医師が治療の適応を判断しています。
幹細胞療法と幹細胞培養上清液の違いが分からない場合や、ご自身が検討している治療について詳しく知りたい場合は、それぞれの治療内容や医学的根拠、考えられるリスクについて医師に確認することが大切です。
監修クリニック情報
N2クリニック銀座本院
住所:東京都中央区銀座6丁目6-5 HULIC &New GINZA NAMIKI6 11階
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休診日:日曜日
最寄駅:各線銀座駅B5番出口より徒歩4分
記事監修者名
竹島 昌栄(N2クリニック銀座本院 院長)
参考文献
- Vizoso FJ, et al. Mesenchymal Stem Cell Secretome: Toward Cell-Free Therapeutic Strategies in Regenerative Medicine. International Journal of Molecular Sciences, 2017.
- Welsh JA, et al. Minimal information for studies of extracellular vesicles (MISEV2023): From basic to advanced approaches. Journal of Extracellular Vesicles, 2024.
- 厚生労働省医政局研究開発政策課「幹細胞培養上清液及びエクソソーム等を用いる医療について(周知)」2024年
- 一般社団法人日本再生医療学会「細胞外小胞等の臨床応用に関するガイダンス(第1版)」2024年
